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  『fate/sleepless in site 1』
  
かわいい教え子に泣きつかれて、耳を貸さない教職者なぞいない。
だから宮城も貴重な時間を割いて、このゼミ生の話を聞いてやろうと思ったのであるが、彼が話を始めて十分も経たぬ内に、いかに自分がお人好しであったかを悟ってうんざりとする羽目となった。
「頼みますよ教授〜、とりあえず頭数が揃わないとどうにもならないんです、ホント、最初の内だけでいいんで!」
「バカヤロー、おれにそんな暇はねえっつうの! 大体、大学教授にんなこと頼む奴があるかバカモノ!」
「いやいや、こういうのって結構お堅い職業の人の利用も多いんですよ! というかおれらがやりたいのはそういうしっかりした人たちが集まる場を作ることなんで、教授みたいな人が参加して下さればもう本当に助かるんですけど!」
「お断りったらお・こ・と・わ・り!」
「もちろん登録はハンドルネームで構いませんし、時間のあるときにちょこっとサイトを覗いて頂く程度のことでいいですから!」
ホントこんなこと頼んですみません、でもどうか助けると思って、などと土下座せんばかりの平身低頭ぶりで頼み込んでくる教え子の姿を見ながら、宮城は深いため息を吐いた。
彼の頼み事というのは、つまりこういうことである。

『自分たちの立ち上げた出会い系サイトに、サクラとして登録してもらいたい』

入会金制を採用した、ごく堅実なサイトを運営したいのだという。
犯罪の温床とならぬようにそこそこ敷居は高くしておきたい。けれどそれでは確実に集客力は低下する。モラルのない人間に来てもらっては困るので、その分涙を呑む覚悟はあるが、それにしても誰も集まらないというのではもっと困る。その為にスタート時にある程度の賑やかし=サクラを、しかもしかるべき安心感とステイタスを備えたそれを、用意しておくのはある意味常識的な作法でもあるのだ。
と、滔々と語られたその説得には、まあ宮城にも肯けないこともなかったが。
―――だからって何でおれが出会い系サイトなんかに登録せにゃならんのだ。
と、憮然としてそう思ったりもする。
バツイチの独身だと密かに憐れまれてたりするのだろうか。余計なお世話だと言いたい。
じろりと睨みつけると敏い教え子はそんな宮城の胸の内を読んだかのように言った。
「もちろん教授には必要のないツールだって分かってます! だから本当に名前だけで、あとほんの少しの時間を提供して頂ければ! サイトが軌道に乗ったらすぐに退会してもらって構いませんし、もちろん入会金なんて頂きません!」
「当たり前だ」
宮城は胸ポケットからタバコを取り出して、箱から飛び出した一本を歯で引き抜いた。
かちっ、とライターを鳴らして火をつける。そんな一連の動作を呆けたように見ていた学生が、はっと我に返ったように叫んだ。
「えっ! も、もしかして、引き受けていただけるんですか、宮城教授!?」
期待に輝くその瞳を眺め、片眉をくい、と上げてみせることで返事の代わりとする。
そう、おれには必要ない、それがわかっているならいい――ではなくて、そもそも宮城はこの学生のことは信用しているので、出会い系サイトと聞いて脊髄反射的に感じる胡散臭さもあまり気にはしていなかった。要するにこれは、若き企業家のプレゼン、営業活動なのだ。そう思えば、とりあえずそうそう面倒なことでなければ協力してやってもいいのではないかとふと宮城は思ったのである。
「名前もなんもテキトーでいいんだろ? 仕方ねえから登録だけはしてやるよ」
「あ、ありがとうございますーーーっ!!! やっぱ宮城教授は話が分かるーーー!!!」
「ただし、おれはそういうの初めてだから、明治生まれの人間にも分かるくらいに懇切丁寧な手引きを作っとけよ」
「はいはいはい! もう手取り足取りなマニュアル置いていきますんで!」  
かわいい教え子はまさに踊り出さんばかりの喜びようであった。その姿を見て、宮城は少しばかり善行を施した後の清々しさを感じた。
まあ自分もいい年をしたオトナなんだし、出会い系サイトごときにいちいち気分を左右されるのも馬鹿馬鹿しいというものだ。
未来ある学生の起業を手伝おうというのに、ちょっとした手間を惜しむこともないだろう。
「上條にも頼んでみたらどうだ?」
余裕を取り戻した宮城は、ゆっくりと煙を吐き出しながら言った。
「あー、上條先生今忙しくて殺気立ってるから……」
「あー、確かに。なるほど、すでに玉砕してきたってわけか」
「いやー、おっかなくて近寄れませんでした。話すら聞いてもらってませんよ〜」
「アイツ、余裕無いときホント怖いからなぁ。眉間のデスヴァレーから確実になんか禍々しいモンが出てるし」
あっはっは、と笑いあう空気は、すでに和やかなものである。
このあたりは宮城の人徳といえるかもしれない。


さすがに大学のPCから登録するわけにもいかないので、宮城は教え子の置いていった手引きを自宅へ持ち帰った。そうして現在、それと首っ引きで出会い系サイトの登録作業に勤しんでいるところである。
これはちょっとした手間どころの騒ぎではない。非常に面倒な作業であった。宮城は再び、己のお人好しぶりにうんざりとする羽目となった。
これは逆にこっちが報酬をもらったっていいんじゃないか?
わざわざ金を払ってまでこの面倒な作業に取り組む人間の気が知れない。
とはいえ、過疎地や過重労働などの問題が、真剣に交際や結婚を考える人たちにとっては深刻な障害となっていることも理解している。こうしたサイトの存在意義はそこにあり、教え子の目指すところがそうした人たちの手助けであるということが、何とか宮城をPCの前に繋ぎ止めていた。
一瞬、忍に頼んで代わりに作業をやってもらおうかと考えたが、なんだかとんでもなく藪蛇になりそうな予感がしたので却下する。
宮城はディスプレイに目を向けた。
教え子のサイトは全体的に落ち着いたデザインでまとめてあり、趣旨説明や案内も簡潔で、無駄に利用者を煽り立てるような雰囲気はない。まずは合格点といえるだろう。登録する前に他の会員の内容を参考にさせてもらおうと思い、会員名簿とやらを参照してみたら、男性も女性も20代から50代といったあたりの年代で占められていて、その職業も医者や弁護士、公務員や教員など確かにお堅い感じのものが多かった。
登録人数は、現在男女合わせて約50人程度。立ち上げたばかりだからこれからもっと増えるだろうが、まあ賑やかしでも登録してくれと必死になって頼み込む気持ちもよく分かる。
果たしてこの中でサクラなのは幾人ほどであるか。
全員サクラだったりしたらとんだ茶番だよなぁ。そんなことを思いながら宮城は登録画面に辿りつき、必要事項を適当に入力していった。
名前……は適当でよいとのことなので、とりあえず、桃青とする。敬愛する芭蕉をこんなところで引き合いに出すのはどうかと思わないでもないが、偉大な彼に、霊験あらたかな護符となってもらいたい気持ちもあった。
年齢は10年ほど遡らせていただくことにする。25歳。ああ懐かしき院生時代。ふと若かりし日々を思い出し、ついでに無力が蒙る理不尽も思い出して若さもいいことばかりではないと確認したりする。続いて生年月日に血液型。しかしなんだって血液型なんて情報が必要なのか? あたしB型とは合わないの、だからこのヒトはダメね、なんて本気で考える奴がいるとでも?……いるんだろうなァ。
職業、年収、最終学歴。うーんなんだかシビア〜な感じ。こういうのはどうでもいい人間にはどうでもいい情報であるが、死をもってしてもあるレベル以上を要求する鬼軍曹みたいな奴も確かに存在する。ところで25歳の教員って年収はいかほどだ? よくわからないが300万から400万ということにしておこう。
次いで身長、体重、現住所。性格に趣味に好きなタイプ。最後に自己PRをしろとある。
知らんがな! と怒鳴り込みたい(どこへ? あのスカポンタンの教え子のところに決まってる)気分を宮城はぐぐぐぐっと堪えた。もう考えるのも面倒だったので、ささっと適当に欄を埋める。そうして登録ボタンをクリックし、【 仮登録を受け付けました。入会金のお振込み確認後、本登録とさせていただきます 】 という画面を確認した。
後は教え子宛てに 『HN桃青で登録。非常に面倒だったのでお前の論文考査は特に辛くするつもりだから覚悟しておけ』 とメールすれば、とりあえず今夜の宮城のミッションは終了である。
 


(続)






タイトルは完全におふざけです(^^)すんません!




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